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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第2章 壱の巻

 公子はもう一度、頭上を振り仰いだ。恐らくは背後の桜の樹から落ちてきたに相違ない。
 弥生の上旬の今、桜はまだ花をつけてはいない。緑の葉裏が春の陽を浴びて、眩しく光っていた。
 公子は哀れな毛虫を眺め、微笑む。
「可哀想に、樹から落ちてしまったのね」
 公子は慣れた手つきで毛虫をつまんだまま、そっと樹の幹に置いた。

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