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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 それは、あたかも自分が男と一体となり、風となって夜を駆け抜けてゆくような感覚だった。
「重くはありませんか」
 公子が耳許で遠慮がちに問うと、男は屈託なく笑った。
「何のこれしき、私は今でこそ文官を務めていますが、任官する前は武官に憧れて武術の鍛錬に明け暮れていた時期があったんです。あなたのようなか弱い女性一人くらい背負って走るのなぞ、何ほどのこともありませんよ。心配しないで下さい」

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