テキストサイズ

無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 せめて今だけは夢見ていたい。夢を見させて欲しい。
 公子は、躊躇いがちにそっと男の肩に頬を押しつけた。ひんやりとした夜風が公子の頬を撫で、髪を揺らす。
 深い疲労が眠気を誘う。春の夜風に優しくあやされ、公子はいつしか、うとうとと深い眠りに落ちていた。
 眠りの中で、公子はまた夢を見ていた。
 夢の中でも公子は風と化していた。
 逞しい男の背中に背負われ、夜の中を風のように疾駆してゆく。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ