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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

「いや、姫。今のはほんの悪戯心を起こしたまでのこと、まさか姫が本気になさるとは思わなかったのです。今の言葉は全部出任せですよ、だから、どうか泣くのは止めて下さい」
 根が正直な公之は、公子の涙を見ただけで慌てふためいている。正直者のくせに、こうやって公子をからかっては泣かせてしまうのは公之の悪い癖であった。
「本当に? 本当に私、何も言ってなかったですか」
 公子がなおも疑わしげに訊ねると、公之はコクコクと幾度も頷いた。

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