無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
紀伊家は代々、学者の家柄で文章博士を輩出してきている。だが、公之自身は幼時から学問よりは武芸に興味を持ち、机に向かうよりは専ら庭で刀や弓を手にしている方が性に合っていたのだと、これは公之当人が笑いながら話したことである。
―私はいわば、紀伊家の落ち零れですよ。
自嘲気味に言う公之ではあるけれど、十八で従五位蔵人に任じられ、蔵人所での働きと有能さが認められ、三年前、四位・蔵人頭に抜擢されたという経緯を持つ。禁裏ではその官職にちなんで〝頭中将〟と呼ばれていた。
―私はいわば、紀伊家の落ち零れですよ。
自嘲気味に言う公之ではあるけれど、十八で従五位蔵人に任じられ、蔵人所での働きと有能さが認められ、三年前、四位・蔵人頭に抜擢されたという経緯を持つ。禁裏ではその官職にちなんで〝頭中将〟と呼ばれていた。