テキストサイズ

無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第2章 壱の巻

 こういうところだけは世間知らずというか、聡明さに似合わずのんびり屋の公子は、のほほんと笑いながら相模を見つめている。
 傍の相模が大仰な溜息をついているのも眼に入ってはいないようだ。
 相模の母唐橋は、生前は公子の乳母を務めていた。相模は公子より四つ年上であり、乳姉妹に当たる。相模には赤児の時分に亡くなった妹が一人いて、その妹が公子と同年であった。当時、妹を生んだばかりの母は乳が豊かに湧き出るように出て、そのことで公子の乳母に任ぜられたという経緯がある。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ