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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 都を出るときは桜が咲き初める頃であった季節も春から夏、更に秋へとうつろっていた。
 紀伊家は藤原家のように政界で権勢を欲しいままにしてはいないが、代々、文章寮で活躍した学者や知恵者を出してきた名家として名を広く知られている。公之は早くに父を喪い、公明に引き取られて育った。紀伊家は洛外にも幾つか別邸を持つが、この宇治の別荘はその一つである。公之の亡くなった父―公明の弟がこの別荘の持ち主であったことから、父亡き後、息子である公之がそのまま後を受け継ぐ形となって今日に至っている。

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