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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 今は、こうして川のせせらぎや鳥の声、花の美しさに心を向け、穏やかな刻を過ごせることが夢のように思えた。
「そういえば、庭の女郎花が今、とても綺麗に咲いています」
 公子がふと思い出して口にすると、何か物想いに耽っていたらしい公之がハッと顔を上げた。
「良かったら、庭に出てみませんか」
 公之の申し出には心惹かれるが、公子は、でもと、躊躇いを見せた。

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