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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 思いがけぬ攻勢に遭い、公之が力を緩める。その一瞬、公子は泣きながらその腕から逃れた。
「姫ッ」
 公之の狼狽した声が呼び止める。
 だが、公子は夢中で走った。
 屋敷を出て、ふっと我に返ったときには別邸から随分と隔たった道を歩いていた。
 いっそのこと、このまま死んでしまおうかとも考える。眼の前を宇治川が流れていた。

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