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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 ふいに脚許にポトリと何かが落ちてきた。
 ハッとしてしゃがみ込んでみると、地面で小さな虫がもぞもぞと動いている。そっと拾い上げて月光に透かしてみると、それは小さな黒い虫だった。大方、川原に生いしげった秋草についていたのだろう。
―こんな小さな虫だって生きているのよ。
 唐突に幼い日の自分の声が耳奥でありありと甦った。いつだったか、あの男にそう言ったことがある。どんな小さな虫だって生きているのだから、むやみにその生命を奪ってはならないのだと。

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