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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 もう一度だけ、逢いたい。
―公之さま。
 公子は、心の中で愛しい男の名を力の限り呼んだ。
 辱めを受けた身で、おめおめと生きて生き恥を曝すつもりは毛頭ない。もし、自分が生命を絶ったその後でも良いから―。
 たとえ今は聞こえずとも、いつかこの胸の熱い想いが風に乗って公之の許まで届けば良いと願いながら。せめて、公之への思慕だけは伝われば良いと切なく祈りながら。

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