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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第2章 壱の巻

 指先でつまんで口に放り込むと、ほんのりとした甘みがひろがってゆく。菊の形をしたこの干菓子が公子は幼い頃から大好きだった。
 物心つくかつかぬ中に生母を喪った公子にとって、母と呼べるのは数年前に亡くなった乳母と、幼時に娘のように可愛がってくれた大宮だけであった。皇太后という立場上、再々逢うことは叶わなかったけれど、帝が幼少の頃は、行幸・行啓という大袈裟なものではなく、安子は帝を連れてよくこの屋敷にも遊びに来た。

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