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夜の幕がゆっくりと開く

第1章 夜の幕がゆっくりと開く

あれからどれ程の時間がたっただろう。

時計も日の光もないこの部屋では時を感じることができない。

こうして縛られているだけだと一分でも長く感じているのだろう。

いっそ眠ってしまおうかと目を閉じたとき、重たい扉が開いた。

「体の調子はどうだ?」

「最悪や。こんな固いところでじっとしとったら全身痛いわ。」

「そうか。どうだ?言う気にはなったか?」

「言うもなにも、忘れたゆうてるやろ。いい加減諦めろや。」

「…そんな口が聞けるのはいつまでだろうな。いいことを教えてやろう。明日、お前をショーでお披露目する。ショーといってもセリだ。五年前に聞いているはずだ。人身売買だよ。お前は目玉商品として高値で富裕層に売りさばく。この鍛え上げられた肉体は、高値で取引できるからな。…男としての最大の屈辱を、一生味わって、年をとればゴミのように捨てられる。…今ならまだ間に合うぞ。情報を教えろ。」

輪郭、脇腹、腹筋、太もも、足先へと指を滑らせながら俺に丁寧に説明をくれた相手の顔を穴が開くほど睨んだ。

今回の依頼はこの会社がある時を境にいきなり大きな売り上げを出したため、その裏の証拠の資料を渡すと言うものだった。

はじめは株のインサイダー取引が原因だとにらんで証拠を探していたが、どうやら違ったようだ。

「しつこいやつやな。思い出されへんゆうたら思い出されへんねん!!」

「さすが、芯がしっかりしている。そうゆうやつが崩れるのを見れるのは楽しみだ。セリの怖さを知らないんだろ。教えてやるよ。これから。」

耳元に寄せられた相手の口の両端が割けるかと疑わせるほど大きくつり上がった。

俺から顔を離せば俺の髪をつかんで無理矢理顔の前に寄せた。

「おぉ、怖い目をしちゃって。僕は君のような人が好きだな。君のような頑なで強気な人が膝まついて僕にお願いする姿が大好きだ。どうか、助けてください、なんでもしますと。」

「誰が言うかボケ。」

「皆最初はそう言うのさ。しかし、最後には皆膝まつくのさ。」

息がかかるほど顔を近くまで寄せた相手の顔がしゃくに触り、鼻に噛みついた。

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