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夜の幕がゆっくりと開く

第1章 夜の幕がゆっくりと開く

「こいつか。…しかし物好きやんな。なんでこんなやつの相手を…」

「あんま言いすぎたら売られんで。しゃあないやん。」

二人は準備しながら小声でこそこそと話している。その声はよく聞き覚えのある二人とそっくりだ。

「んなら、始めるか。」

二人が俺の顔を覗きこんだ。その顔はそっくりだと思っていたその本人で、思わず名前を叫びそうになるが、四方を囲む銃口が光り、口を噤んだ。

一人が小瓶を取り出せば、その中の液体を指に垂らしてわざわざ俺に見せる。

にっとにやけた顔は俺の睨む目など慣れてるかのようにあしらい、その指を俺の唇に当てた。

口紅を塗るようにまんべんなく塗られれば、冷たく、ぬめっとした感覚に寒気を感じる。

「しゃべらん方がええで。それ、口のなかに入ったらまあ、大変やから。」

「…もしかして原液のまま?」

「売られた先じゃ、薄めてもらえる幸せもん、なかなかおらんからな。今のうちに慣れとかな。ゆうてもセリ、明日やけど。」

動けない俺をにやにや眺めながら楽しくおしゃべりする二人を俺は全力で睨んだ。

なんでこいつらがこんなところに…。

「はじめてやろうに明日セリなんてかわいそうやな…。俺やったら絶対に情報話すわ。」

一人が道具を出すとそれをさっきの小瓶の液体で濡らした。

「ゆうてることとやってることがあってへんやん。」

その様子を見たもう一人が口角を上げる。

道具をもったやつは俺の足の間に立っては俺を舐めるように見回す。

もう一人はまるで俺の顔をなにかの料理にでも当てはめているように見下ろす。

これほどの屈辱を味あわされるぐらいなら情報を言った方がましだ。

…その情報を知ってればの話だが。

今さらどれだけ暴れたって鎖はしっかりと繋がれていて外れる気配は微塵もない。

むしろ暴れれば暴れるほどに鎖が摩れて傷を作られた。

「心配せんでも、俺らがちゃんと明日から楽なように調教したるから、そう暴れんな。」

ふっくらとした唇が俺の耳元で囁いく。

そして鼻で笑う声。

文句を言いたかったが口をしっかり閉めておかないと唇に塗られた得体の知れない液体が口へと流れ込んでくる。

唇を噛み締めることさえも許されずに俺はこれから来る恐怖に耐えなければならなかった。

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