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息もできない

第14章 喜んで欲しいんです

振り向いてみるとそこにいたのは

「黒澤さん」
「こんにちは……ぇと」


あ、名前名乗ってないんだっけ?

「失礼いたしました、名乗りもしていなかったですね。私、谷口と申します」

と名乗るとにっこりと笑って

「ありがとうございます」

とお礼を言ってくれた

「荷物が多いですね、お買い物ですか?」
「はい」
「そうなんですか。俺はちょっとハルに用事があって」


ハル………か

胸の中に小さい毛玉を落とされたみたいに違和感があるけど俺はそれに気付かないフリをした


そうなんですか、と微笑んでいると黒澤さんは少し意地悪な微笑みに顔を変えて


「そういえばこの前買ったワインて、ハルに送るものなんですか?」


と聞いてきた
嘘をつく理由も見つからず俺は

「実は、そうなんです」

と答えた

「やっぱり。今日誕生日ですもんね、ハル」


さっきまでの意地悪そうな顔はすぐに崩れてなくなった


なんか、こんないい人に嫉妬して不機嫌になって
春陽に、悪いことしたな……
今日ちゃんと謝らなきゃ


するとふと腕時計を見た黒澤さんが

「すみません、俺そろそろ行かないてはいけないんですが。ハルと約束していて」

と言った


約束、してたんだ

でも仕方ないよな
春陽の誕生日は俺だけのものじゃないんだし
他の人にも、祝ってもらいたいだろうし


黒澤さんに谷口さんも行かれますか?と聞かれたけど、俺はにこやかに断って黒澤さんとわかれた

わかれてすぐ、外からチラ、と店を覗くと春陽がこっちを見ていて目があった

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