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息もできない

第17章 会社に行くのです

お店の中に一つしかないトイレは男女兼用だから俺があんまり時間を使うと困る人がいるだろう

でも、一度緩んだ涙腺は簡単に締まってくれなくて、じわりと涙が滲む


「うぅ……」


情けない
二十歳超えた男がトイレで泣くなんて


でも春陽が俺の傍からいなくなってしまうんじゃないかって不安で…

俺が春陽を繋ぎ止めるものなんて、ないから


トイレでうじうじしていると
コンコン
ドアがノックされる音

俺は急いで涙を拭いて声が震えないよう気をつけながら


「すみません。すぐに出ますので」


と外に声をかけた
でも返って来た声は俺を急かしたりするものではなく


「大丈夫?」


と心配するものだった
しかもその声は今想っていた人の声で


「春陽…」


今すぐドアを開けて春陽に抱き締めてもらいたい
でも少し奥まっているとは言えここは公共の場だ
偶然誰かに見られることがないとは言えない

そんなことしたら、春陽に迷惑がかかってしまう
だから出来ない

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