息もできない
第25章 息もできない
「どうして?」
俺が聞くと春陽は穏やかに答える
「ありきたりな考え方だけど、この世界70億人もの人間がいる中で直に出会えて、こうして一緒にいられるってことが奇跡みたいだ、なんて思ったから」
胸が締め付けられるように痛んだ
けどそれはむせ返るほどの甘みを含んだもの
奇跡、か
「俺は春陽と違って、こうして一緒にいられることが奇跡だなんて思わない」
「なんで?」
俺の頭の中を春陽と出会ってからの思い出が巡った
あぁなんか
意味もなく涙が出そうだ
俺はゆっくりと深呼吸した
「だって俺は、春陽と出会えたことが誰かのおかげだなんて思いたくない。俺が、自分の意思で70億人の中から春陽を選んだんだって言いたいんだ」
俺が言い終わると、春陽がそっと俺の手を引いて優しく抱きしめた
そして耳元で
「俺も」
と囁いた
「俺も、直と同じように言いたい。やっぱり神様は信じないことにする。俺は自分で、直を選んだ」
俺は春陽の肩に顔を埋めた
「うん。おんなじにしよ。俺も春陽も、お互いがお互いを選んだから一緒にいるってことにしておこう」
「そうだね」
俺たちは静かに笑いあった