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息もできない

第26章 番外編「St. Valentine's Day 」


それもそのはずか
直はカバン以外の荷物を持ってなかったし


「ごめん、直」
「春陽なんか嫌い」
「あーー……ほんとにごめん……」
「俺は……全部断った」
「うん」
「義理でももらわなかった」
「うん」


そう
今日は、日本中がカカオの匂いで満たされる日

バレンタインデーだ



「ごめん、直」
「……」



今日の店は何となく色めき立っていた

女性客は皆いつもよりしっかり化粧がされていて、服も気合の入ったものが多かった


「あのっ……三浦さん……これ、受け取って下さい!」


真っ赤な顔で勇気を振り絞った女性達に俺は出来る限り優しく微笑む


「すみません。今年は受け取れないんです」
「え……」
「すみません」


俺の言葉のニュアンスで意味を理解したのだろう悲しそうに背を丸めて去っていく女性を見送って小さく溜息をついた


もうこれで、10人目……か
開店して1時間でこれは、やばいな


退店した人達のいた席を片付けに行くと


「あ……」


椅子にこっそりと置いてある可愛らしいラッピング


やられた……


そうすれば嫌でも受け取ってくれると周りの客も察したのか、椅子や机の下の荷物置きに隠すように置いていく人が急増してしまった

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