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息もできない

第30章 番外編「恋人達の聖夜」


「ハルさん! トリップしてないで動いて下さいよ!」
「っ!! 悪い!」


俺の妄想という名の現実逃避は副店長の一声で現実に引き戻された

目の前には席が埋まるほどのお客様

店の中に急遽設置した空席待ち用のベンチまで人は埋まっている


あー……やばい

流石に今日は、ぼーっとしていられないよな


「ふぅ……」


俺は誰にも気づかれないように溜息をついた


「ねぇ隆君」
「なんですか、その気持ち悪い話し方」
「今日クローズ何時に終わるかな」
「…………考えさせるのやめて下さい」
「日付超えるよね」
「マ、ジ、で……俺、それのせいでどんだけ彼女に怒られたと……」


キッチンの中でおたがい手を動かしながらぼそぼそとする会話で、しっかり者の副店長さんは意外と厳しい現実を背負っていることを知る


普通そうだよな


「ハルさんとこはどうなんですか?」
「直も今日仕事だし、お互い様だねって言ってたよ」
「…………くそ……爆発しろ」
「物騒なこと言うな。クリスマスだぞ」
「客もみんな爆発しろ……」


俺の制止も聞かずに暗い目をした副店長は出来上がったケーキセットと紅茶を持ってキッチンを出て行った

俺はその姿に笑いを誘われつつ、自分も頑張らなければ、と気合いを入れ直した

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