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♢Fallen Angel♢

第2章 *

閑静な住宅街を走らせてマンションの前でタクシーを停め、動こうとしない唯を抱えて部屋の中に入ると
「唯?」
コートの襟を掴んだまま胸に顔を埋めている。
降りようとしない姿を見かねたのか手が伸びてきて
「ほら、おばちゃんの所においで」
剥がすように小さな体を委ねると、恨めしそうに睨みつけている。
「いつもすいません。あの…これ着替えが入ってるので」
トートバッグを玄関に置くと
「いつもちゃんと持たせて下さいね」

棘のある言い方…

「はい…唯の事お願いします」
「お預かりしますね」
軽く会釈してドアを閉めると漏れて聞こえる鳴き声に、ため息が零れる。
タクシーに乗り込むと歓楽街に向けて走り出した。
薄暗い車内でファンデーションを塗り直し、濡れたようなグロスを重ねた。
バーの前で降りて中に入ると、グラスを片手にバーテンと楽しげに話す莉那の肩を掴んで
「お待たせ。託児所に預けてきたから遅くなってごめんね」
振り向いた柔らかな髪から甘い香りが鼻を擽る。
「遅いから開けちゃったよ。でも唯ちゃんって駿くんが面倒みてるんじゃないの?」
不思議そうに見つめる目に
「…ちょっとね」
目線を逸らしてカウンターの隣に座ると、グラスが目の前に並びワインが注がれる。
「もしかして駿くんと喧嘩した?」
「…そんな事ないよ」
グラスを手にすると誤魔化すように
「お疲れ」
小さくグラスを合わせて一口。
「そうそう。もう直ぐ蓮の誕生日じゃない?お祝いしようと思うんだけど、どう?」
「いいよ…気持ちだけ貰っとく」
「せっかくホテルのスイート予約したのに?」
「え?何で?」
ばつの悪そうな顔と目が合い
「あ…さてはまた彼氏の仕事の都合でキャンセルされたとか?」
「バレたか…」
鼻先を擦って小さく笑った。
「でも、ホテルをキャンセルするの勿体ないからそこで誕生日お祝いしようよ」
腕を絡めて引き寄せると莉那の柔らかく膨らんだ胸の谷間へ押さえつけられ
「ね?」
至近距離で覗いている目に面倒くさそうに
「…分かった」
腕が離れると満面の笑みを浮かべて
「じゃあ決まりね」
華奢な時計が目に入り、慌ててワインを飲み干すと
「もう行かなきゃ。ごめんね」
席をたち、手を振る蓮の背中を見送るとバーテンに手招きして耳元で何かを囁くと
「ほんとそういうの好きだな…でもあの子なら…」
「でしょ?」
小さくほくそ笑んだ。
 

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