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♢Fallen Angel♢

第3章 **

ソファーに体を委ねると浅い眠りに誘われ、瞼を閉じると小さな手が体を揺らし耳を刺す甲高い声。
「おーきーてー」
甲高い声をあげてソファーを飛び跳ねる。
「もう…何?」
気怠そうに体を起こした。
「唯たん大人しくしてないと連れてかないよ?」
「うん…」
ソファーから静かに降りて猫足の椅子に小さく座った。
「ほら、起きて」
手を引かれて重い体を起こすとキッチンに立ち、トーストにハムとチーズを挟んでいると駿が隣にきて
「何作ってるの?サンドイッチ?」
腰に手をまわした。
「違うよ。カフェで食べたクロックムッシュを再現できないかなって…いいから座ってて」
ソファーを指差して肩を押すと渋々体から離れた。
シンクに目線を落とし簡単なサラダを作り、甘い匂いを漂わせるフライパンからトーストを皿に移しカウンターに並べると
「先に食べてて」
ドレッシングとシロップを添えた。
寝室に入ると鏡台を前に化粧を始め、髪にアイロンをあてクローゼットからパーカーとデニムを取り出し、開けたままのドア越しに
「パーカー借りるよ?」
扉から顔を覗かせ
「別にいいけど何で?」
パーカーを被りジーンズを脚に通していると
「何その格好…メイクもいつもより地味だし…」
「いいじゃない別に…それに客に会ったりしたらどうするの?」
鏡を前にニット帽を目深に被った。
「心配し過ぎだよ…」
一緒にダイニングに戻ると
「蓮は食べないの?」
「アルコール抜けてないからいらない。それと運転よろしく」
鍵を渡すとソファーに座り、食べ終わるの待った。
片付けと身支度を終えるとマンションの下に降りていき、車の側まで近づくとキーレスの音がコンクリートに響きハザードが点滅した。
狭いリアシートに唯の体を沈めると、蓮は車の助手席に乗り込んだ。

車は走り出しマンションから離れていく。
マフラーの低い音を響かせながら海沿いを流していく。
助手席のシートを倒して天井を仰ぎ
「でも水族館なんて何時ぶりだろ?」
「唯たんと出かけた事ないの?」
ミラー越しに目が合い
「駿に出会う前は唯もまだ小さかったし、仕事で余裕なかったから…」
目線を逸らしバッグからタバコを取り出して咥えて火をつけると流れていく景色に目をやった。

どこかに連れて行こうなんて考えた事もなかった。
今となっては自由を縛る足枷。

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