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♢Fallen Angel♢

第3章 **

ライトアップされたビル近くの駐車場に車を停めて歩いていく。
ビルの壁面には
『Hair&Nail』
天井まで伸びる螺旋階段を上り、ガラス張りのドアを開けると
「いらっしゃいませ」
笑顔の店員に迎えられ、被っていた帽子を脱ぐと
「あれ?蓮ちゃん?一瞬気付かなかった…変装?」
「なにそれ…」
店員に帽子とバッグを預けて促されると鏡の前に座った。
ピアスを外してトレイに置くと鏡越しに
「最近忙しいの?」
タオルを首に巻き、蓮にケープを体に纏わせる。
「普通かな…お店自体は暇なんだけどね」
後ろでボウルの中のカラー剤混ぜながら
「でもお店の中だと蓮ちゃんは浮いてるんだろうな…」
呟いた言葉を拾って
「何で?見た目は他の女の子たちより控えめだよ?」
鏡越しに膨れっ面で反論する。
「そういう意味じゃないんだけどな…」
苦笑いを浮かべる男との間を別の男が割って入り
「美人だからだよ。いつデートしてくれるの?」
「えっ?そんな約束してないよ?」
男は鏡越しに優しい笑顔を向け、髪を撫でるように触れカラー剤を塗っていく。
「もう、悪い冗談言わないで。また嫌われちゃう。店長狙いのお客さんばっかりなのに」
「そんなの言わせておけばいいんだよ」
「またぁ…」
「デートしたいとは思うけど、時間がないからね」
「そう言うと思った。美容師さんって拘束時間長いよね」
「僕は単純に家に帰りたくないだけ…」
小さく呟くと体から離れた。
目の前の分厚い女性誌を手に取り、読み進めていると突然付箋が張られる。
走り書きで
〈この後、時間作れない?〉
鏡越しに見上げると目線を逸らされ、付箋を手に隠すと鏡越しに頷いてこたえた。
アラーム音が鳴りシャンプーを終えて簡単に乾かすとハサミで毛先を整え、少しずつカットしていく。
「今日はネイルしないの?」
「お店で不評で…それに整えるだけなら自分でできるから」
ケープが外れブローを終えて支払いを済ませると
「ありがとうございました」
何事もなかったように外まで見送られて会釈に手を振った。
軽くなった髪を冷たい風がさらう。
白い息を吐きながら駐車場まで歩いていき、自販機で缶コーヒーを2つ買って取り出して戻ろうとすると、男が息をきらせながら走ってきて
「ごめん。誘ったのに…待たせちゃって…」
蓮は缶コーヒーの片方を渡して笑顔を向けた。

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