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♢Fallen Angel♢

第3章 **

「どうした?そんなに息切れして」
「…なんでも…ないよ」
カウンターに座ると
「嘘つくな」
「…お客さんから逃げてきただけ。心配しなくても大丈夫だから」
グラスを戻し終わると蓮の頭を撫でて優しい口調で
「また絡まれてたんだろ?どこの輩なんだ?心当たりあるんだろ?」
まるで見透かしたような物言いに
「違うよ。余計な事考えないで。悠くん怒ったら何するか分かんないんだもん…ちゃんと断ったから」
「でも…」
「もう昔みたいなのは嫌だよ」
「あれはあいつらが蓮を…」
「でも傷害で訴えられそうになって父さんと母さんが示談で…」
「その話はもういい。あいつ等の事は思い出したくもない」
冷たく突き放す言葉に押され
「…うん…ごめん」
大きな背中を向けてショットグラスにTEQUILAを注ぎ、一気に飲み干す姿に
「…怒ってる?」
不安そうに小さく声を掛ける。
「いや…」
甘い声で
「初めて作ってくれたカクテル、久しぶりに飲みたいな…なんて」
少し間が空き
「…1杯目のやつでいいのか?」
振り向く悠人は悪戯な微笑みを浮かべている。
「あ…だめ。あれはジュースだったもん。悠くんよく覚えてるね」
「だからその呼び方するのやめろって」
シェーカーを振る小気味よい音が響く。
差し出されたタンブラーグラスには淡いピンクに染まるICE BREAKER。
「懐かしいね4年振り?」
「今の仕事始めたばっかりだったっけ?危なっかしかったもんなあの日…俺の店でよかったよ。ほんと」
「気づいてた癖に何も言ってくれなくて出てきたカクテルはジュースなんだもん」
「蓮の反応に何度か吹き出しそうになったけどな」
頬を膨らませ
「酷い…」
「だから持ち帰りされずに客から逃げれたんだろ?」
「…感謝してる。でも、あの日ここに来てなかったら会えてなかったんだね。ゆ…お兄ちゃんがどこにいるのか知らなかったし」
「それはお互い様だろ?この家出娘が」
指先で額を弾かれ
「いたっ…何するの?」
涙目で顔をしかめる。
「でもお陰で蓮を見つける事ができたけど…」
小さく呟いた声が聞き取れなくて
「何か言った?」
不思議そうに見上げると優しい笑みを浮かべて髪を撫で
「何でもないよ」
頬に指先が触れて唇が近くなると突然のチャイム音に邪魔される。
インターフォンに悠人が対応すると勢いよくドアが開き、鼻につく甘ったるい香水の匂いが漂う。

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