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♢Fallen Angel♢

第1章 APPETIZER

「駿の言うこと聞かないとだめじゃない。あっちに行って着替えてきて」
廊下に続くドアを指差して唯の背中を押すとタオルを引き擦りながら戻って行った。
再びシンクに立ち、温めたソースをパスタにからめて皿に盛、サラダと一緒にダイニングテーブルに並べた。
バッグを掴み廊下に出ると、着替え終えた駿と唯がいて
「ご飯ならテーブルに置いてあるから」
「蓮は一緒に食べないの?」
クロークからコートを取り出して羽織ると
「今日は外で食べるからいい。それにもう行かないと…後はよろしくね」
「唯たんママにいってらっしゃいしよ?」         
促しても駿の足に絡みついたまま首を横に振り動こうとしない。
「いってらっしゃい」
小さく唇を重ねて外に出ると、ドアの向こうから泣き声が聞こえてくる。
泣き声を不快に感じながらも、下に呼んであったタクシーに乗り込んだ。

黒く光るボンネットに街の明かりを
映しだす。
赤く続くテールランプに、流れ出した車の波。
側道に停めたタクシーの赤いテールランプとオレンジのハザードの点滅が列をなし、今日の始まりを告げている。
            
歓楽街の入り口で降りると冷たい風が頬を刺す。
ビルの影に入りタバコに火をつけて肺を煙で満たす。
吸い終えるとコートの襟を竦め歩き出した。
メールを知らせる携帯の振動。
開くと宛名のハートの大きさが優先順位を物語っている。
着信音が鳴り
「もしもし?」
『今どこにいるの?』
昼間に電話を掛けてきた男の馴れ馴れしい声が聞こえる。
「まだ駅の近くなの。少しだけ待ってて貰ってもいい?」
『それは別に構わないんだけど…』
「ごめんね。急いで行くから」
短く電話を終わらせ、メール画面に戻ると打ち込む指先が悴む。
一通り終える頃には、ドレスの裾を引き摺る女の姿が増えてくる。
「蓮」
人の波に頭一つ分背の高い男が手をあげていて、駆け寄って手を握ると
「待たせちゃった?いつからここにいたの?」
「オレもついさっき着いたところだよ。蓮が迷子になるといけないからここにいたんだよ」
悪戯っ子のように微笑む顔に口を尖らせて
「迷子になんてならないもん。でもありがとう。早く会えて嬉しい」
満面の笑みを向けると、肩を抱かれ引き寄せられる。
「俺も会えて嬉しいよ」
唇が髪に触れ
「…あれ?蓮ってタバコ吸うんだっけ?髪から匂いがするよ?」  


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