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♢Fallen Angel♢

第1章 APPETIZER

「最悪…お兄ちゃんだよ。送って貰った時、吸ってたから」
「ああ…シスコンの。今日の事何か言ってなかった?」
何度も髪を撫でる指先に悪寒が走り、体が小さく跳ねる。
「心配しなくても大丈夫。蓮の好きな人の事悪く言わないよ」
「そっか」
セットしたばかりの髪を耳にかけられ
「でも蓮は感じやすいんだね。触れるだけで…」
耳元で甘く囁く声に苛立ちを抑えて
「…そんな事ないもん」
胸を押して恥ずかしそうな素振りを見せる。

傍目からは頭の悪そうなカップルに見えるけど違う。
今日はデートと言う名の同伴で、この男はあくまで客のひとり。

指先を絡めるように手を繋いで夜の街を歩き出すと、飲食店から漏れてくる匂いが空腹を刺激する。
赤いのれんを指差して
「言ってたお店ここだよ」
「ここ?」
怪訝そうな顔を無視してのれんを潜ると
「いらっしゃい」
威勢のいい声に迎えられ、肩が触れるほど狭いカウンターに座った。
目の前に水の入ったグラスが並ぶと、壁に貼られた紙を見まわして目に入ったメニューを指差して店員に訊ねるように
「鶏白湯?これください」
目配せをして
「一緒のでいい?」
「構わないけど…」
「じゃあ2つお願いします」
店員の声が店に響く。
「鶏白湯二兆」
水で乾いた喉を潤していると
「この店に何度か来たことあるの?」
「来たのは初めてだよ。ブログで紹介されてて、このお店前から気になってたんだ」
「蓮ってネットできるんだっけ?携帯もガラケーだし…」
「ひどい。調べるくらいならできるもん 」
カウンター越しに
「おまちどうさま」
器が並び
「美味しそう。いただきます」
ラーメンを啜っていると
「でもこんな店でよかったの?他にもお洒落な…」
「いいのっ。それにここに来ようって言ったの蓮だよ?」
「そうだっけ?」
「うん」
目が合うと小さく笑いあう。

外で使って貰うより、店に落としてくれた方がいい。
いつもは値段表示のない店にしか行かないなんて言えないし…
時々、庶民の味が恋しくなる。

食べ終えて支払いを任せて外に出ると
「次どこに行く?この近くにワインバーがあるんだけど?」
右腕の華奢な時計を見せて
「でもそろそろ行かないと…」
「もうそんな時間?」
男の左手にはブランドの時計が光る。

値踏みしてしまうのは悪い癖。

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