テキストサイズ

夏のシュークリーム

第3章 賭けには勝てたから

「今日の着物も綺麗だね。季節ごとに違うんだっけ?」
「はい、夏の着物は少し生地が特別で…」

透けるような涼しげな生地。白と黄色の菊の花が橙色の背景に咲いている。

あぁ、いいな… 

着物姿は何度か見たけど、やはりたまらないものがある。
髪をあげているから見える白いうなじ、襟元から少しだけ覗く鎖骨が艶めいて、なんだか眩しい。
しかもここは自分の部屋で、ベッドには朝取り替えたばかりのシーツ。

整えられた条件に、松井は理性が飛びかけていた。

「松井さん」
「何っ?」
呼ばれて、我に返る。

「あの、割烹着をお借りしたんです。次郎君が出してきてくれて…洗ってお返ししますね」
「いいよ。その変に置いてってくれれば」
「あ…でも ぁ…まついさんっ」

松井は咲の背後に回り込むと、指先を襟元に滑らせた。

「駄目?」

耳元で呟く。咲はその少し低い声ににゾクリと身体を震わせた。

「駄目なら、そう言ってくれないと分からない…あれ?」

滑り込ませた指先に、あるはずのものを感じない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ