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夏のシュークリーム

第1章 会えない日のお客様

「すごい!これ、作ったんですか?」
実は、シュークリームは松井の大好物だ。
「次郎君が、松井さんはシュークリームが大好きだからって」
「はい やった…」
苛立っていた表情が、柔らかくなる。

次郎はそれを微笑みながら見つめると
「クリームは三種類だよ、たろちゃんが好きなイチゴもあるからね。はい、これ」
とピンク色のクリームが挟まれてものを松井に渡した。

「ありがとうございます」

シュークリームには思い出がある。子供の頃、勉強や運動で成果が出た時、風使いとしての成長が認められた時、当時一緒に暮らしていた次郎が、ご褒美と称して、近所の洋菓子店からよく買って来てくれた。

焼き菓子なども美味しい店だったが、一昨年店主が亡くなったと同時に、惜しまれながら閉店してしまった…。
松井はその場所を通る度、何か大事なモノが無くなってしまったかのような気分になった。

「あの店の味にかなり近づいてると思うよ」
「いただきます」と一口。
まさか洋菓子店の味を再現出来るなんて、そんな事は簡単じゃない。

…そう疑う松井に、まさかの衝撃が起こる。

「うーわ本当だ!!この味ですよっ!」

無くしたものをやっと見つけたような、そんな感動が身体を包み込む。

「でしょう」
松井の明るく咲いた表情に、次郎は笑みがこぼれる。


そんな二人を見て、ミカもなんだか温かい気持ちになった。
「次郎君って本当、松井さんのことよく知ってるよね。なんだか友達っていうよりお兄さんみたい。年は全然下なのにな。なんだか不思議」

「そうかなぁ」
次郎がすっとぼける。

淫魔とか風使いとか、一連の話はまだミカにしていない。
多分まだ時期じゃないし…。


「ちゃらんぽらんに見えて、次郎君は意外としっかりしてるから」
フォローするように、松井がミカに言う。

「ふふっ 分かります。普段はユルユルだけど、いざという時はちゃんとしてくれるし」
「嬉しい そんなによく、俺の事見てくれてるんだー!」
その言葉に感激した次郎は、勢いよく隣に座ったミカに抱き付いた。
そのままソファに崩れ、押し倒した形になる。

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