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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 始まりは雨

 悪夢は、あの朝から始まった。それは、まさに小紅(おこう)にとって青天の霹靂であったといえよう。
 小紅の父は上州屋といって、江戸でも一、二を争う呉服太物問屋を手広く商っている。屋号からも判るように、初代ははるばる上州から出てきて最初は小さな小間物屋から始めたようだが、それから数代を経た今では、押しも押されぬ大店としての信用と実績を勝ち得ていた。

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