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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 父とは殆ど話さない日々であったが、何を思ったか、父は昨日に限り小紅を呼び出し、珍しい甘酒だといって呑ませてくれたばかりか、母の想い出話までした。昨夜の父は昔どおりの温厚な父で、小紅はもしかしたら、父がまともになる決意をしてくれたのではと儚い希望を抱いたのだったけれど―。
 その朝、小紅の深い眠りは番頭の嘉一の狼狽えた声で破られた。
「お嬢さま、お嬢さまっ」

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