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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 母が生きていた頃、父にぶたれたことなど一度たりともなかった。
―おとっつぁんはもう昔のおとっつぁんじゃないのね。
 頬よりも心の方が痛かった。
 更にそれから二年が経った。上州屋の繁盛は昔の夢となり、今は数人残った奉公人で細々と暖簾を守っているような有様である。

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