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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 京屋の主人の婚約式に新妻が纏う晴れ着となれば、わざわざ加賀から取り寄せた一点物の極上の布地だ。せめてこれから険しい人生を歩むであろう幼い少女の行く末幸多かりしことを祈りながら、ひと針ひと針心をこめて縫い上げるつもりだった。
 何しろ急に決まった婚約・結婚なので、時間がない。納期も来月半ばとかなり急いで仕上げねばならない。昨夜から取りかかったばかりだけれど、やはり、小紅自身、栄佐のことが気掛かりで実のところ、他人の晴れ着を縫うどころではなかった。

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