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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

「決行は来月五日の夜。長屋に迎えにいくから、支度して待っちょってくれ」
 はい、小紅が応えるのを待たずに、龍馬は歩き出した。ふと立ち止まり、鋭い視線で周囲を窺ってから早足で去ってゆく。
 小紅は龍馬から少し遅れて店を出た。奥に向かって
「お婆さん、ありがとう。お代はこちらに置いておきますね」
 返事はなかった。小紅は茶代を椅子の上に置き、龍馬が去ったのとは逆方向にゆっくりとした足取りで歩き去った。

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