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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第16章 【戀月桜~こいつきざくら~】決着~安政六年四月五日宗徳寺

 栄佐は折しも和泉橋を渡っているところだ。
「よっ、碧天」
 小紅が声をかけると、栄佐は小さな橋の上で立ち止まり、おどけて見得を切る真似をして見せた。やはり、長年役者をしているだけあって、そんなちょっとした仕種もサマになっている。何より舞台から離れている間は淀んだ淵のように暗かった瞳が生き生きと輝いていた。
 本人の言うように、彼は舞台に上がってこそ、板東碧天として生命を吹き込まれるのだ。

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