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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第16章 【戀月桜~こいつきざくら~】決着~安政六年四月五日宗徳寺

「行ってらっしゃい」
 小紅の声に見送られて、栄佐は橋を渡っていった。
 やっぱり、栄佐さんはああやって役者をしているのがいちばん性に合っているみたい。改めてそう思う。 
 小紅も先刻の栄佐に倣って、空を見上げてみる。抜けるような四月の空が眩しく小紅の眼を射た。ひとひら、薄紅色の花びらがくるくると風に乗って眼前を漂い流れてゆく。
 小紅はいつまでもその花びらを眼で追っていた。

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