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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第19章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 異変

   異変

 どこか物哀しい蜩(ひぐらし)の啼き声が遠く潮騒のように響いてくる。小紅(おこう)は聞くともなしに耳を傾けながら、そっと眼前に置かれた小さな姫鏡台を眺めた。
実家を出るときに持ち出した数少ない見回りの品の一つである。まだやっと物心ついた時分に父から買い与えられた小さなそれは、いかにも子ども騙しの玩具のようなものだが、ちゃんと鏡は曇りなく磨かれ、小紅が長年、大切に使ってきたことを物語っている。

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