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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第2章 【残り菊~小紅と碧天~】 恋一夜

 そのときだった。
 少し向こうで幼い丁稚が庭を掃いているのを認め、小紅は静かに近寄った。
「あの」
 愕かせないように声をかけたつもりだったが、丁稚は飛び上がった。
「愕かせてしまって、ごめんなさいね」
「はい、いいえ」
 正直に応えてはいけないと思ったのか。妙な応えを返した丁稚はまだ十歳にもならないだろう。小さな身体を折り曲げるようにして、恐縮している。

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