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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第20章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 定命  

 しかし、主となった息子を立てて、よほどのことでない限りは口を出さないのに、先日は寄り合いで市兵衛こと清治郎が寄り合いの組長と真っ向から口論したことについて激怒し、息子をしかり飛ばしたそうだ。
―先代の徳太郎さまが今も主人でおわせば、こんなことにはならなかったものを。
 京屋内でも古参の奉公人が陰で嘆き合い、若い市兵衛は余計に孤立している。その市兵衛も兄に次いで九月には嫁取りをするわけで、このままでは所帯を持つどころではなかろうと周囲が心配していると専らの噂だ。

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