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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第2章 【残り菊~小紅と碧天~】 恋一夜

そんな案配で、お内儀さんがこちらにお嫁にいらした頃は、丁度、難波屋にはいなくて、当時の詳しい経緯は知らないんですよ」
 お琴が再び奉公を始めたのは、二年違いで生まれた四人の子どもの中、末っ子が十歳になった年だという。当時、既におきわは武平の妻となっており、準平も若旦那として大切に育てられていた。
 父仁助はむろん知っていたろうが、そんな余計な話は一切、小紅にしなかった。だから、小紅がそんな昔の複雑なゆくたてを知らなくても当然といえた。

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