テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

 小紅が軽く睨んでやると、栄佐はまたしても不謹慎極まりないことを平然と言う。
「おお、怖。俺が怖えのはやっぱり神や仏じゃねえ、小紅、やっぱり、怖い女房どのの雷みてえだ」
「誰が女房ですって? まだ祝言を挙げたわけじゃないのよ?」
 懲りない男である。小紅が柳眉をつり上げるのにも怯むことなく、栄佐は愉快そうに声を上げて笑っていた。
 その日、江戸の町の至る所で曼珠沙華が燃え盛る焔のように紅蓮の花を咲かせていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ