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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第21章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 兄の悩み

 徳源和尚や皆の懸命な祈りの声が天に届いたのかどうか、その月が終わり、十月になって秋がいよいよ深まろうとする頃に、怖ろしい疫痢の蔓延は江戸だけでも大勢の犠牲者を出して一応の終焉を迎えた。
 疫痢騒動がひと段落着いた頃、智助は迎えにきた父親に連れられ、上方へと旅立っていった。
「元気でね」
 小紅がしゃがみ込んで智助の高さに視線を合わせると、今にも泣き出しそうな表情の智助がグスッと洟を啜った。

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