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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆

 この栄佐、実は大身旗本の殿さまだという更に裏の顔があるのだが―、もちろん、彼の正体は小紅ですら知らない。売れない大部屋役者兼腕の立つ鍼医、それが栄佐のよく知られる表の顔だ。
 栄佐は切れ長の眼(まなこ)をかすかに眇めた。小男は相も変わらず小紅の住まいの前で中の様子を窺おうとしている。これ以上は捨て置けない。彼は極力気配を殺して、小男に近づいた。

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