テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆

 武平は到底女にモテるような質(たち)の男ではないという小紅の話を鵜呑みにしていたけれど、今、初めて見る仁助はこれだけの男ぶりであれば若い女でも満足はするのであろうという程度には見映えのする男であった。まあ、江戸でも指折りの大店の主人という肩書きももちろん大いに物を言ったではあろうが。
「お前さんは上州屋仁助さんだね?」
 栄佐と小紅は夫婦(めおと)約束を交わした仲である。仮にも舅になるやもしれぬ男にぞんざいな物言いもできない。栄佐は心もち口調を改めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ