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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆

「まあ、もうこんな季節になったのね。道理で日に日に寒くなるはずだわ」
 小紅は立ち上がった。
「栄佐さんがこんなことをしてくれるなんて、それこそ紅い雪が降りそうよ。それなら、おあいこってことで、私もやっぱり、お茶を淹れるわ」
 笑いながら手早く準備を整える。茶を淹れるといっても、その日暮らしの長屋住まいのことだ。安物の茶葉しかない。それでも、小紅が手ずから淹れた茶を栄佐は咽を鳴らしてさも上等の茶を飲むように美味そうに呑む。

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