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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆

 今、自分は自分のあるべき場所、進むべき道に辿り着けたのだと思った。自分が今、幸せ一杯であるように、栄佐もまたそうなのだと思い込んでいた。
 だが、嬉しげに笑っていた栄佐の美しい面がふっと翳った。あたかも煌々と輝く月が雲に閉ざされてしまったかのように眩しい笑みが消えた。
 小紅は何事かと不安げに彼を見つめた。
「もしかして、まだ早かった? 栄佐さんは途中で気が変わって、祝言はまだ先にしたいとか思ってる?」

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