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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 ある夜、栄佐は傍らに眠る小紅の存在を必要以上に意識してしまい、当然ながら、眠れなくなった。普段は意識などしことのない火の用心の掛け声がやけに耳につく。
 悶々と薄い夜具の中で寝返りを打った挙げ句、沈黙に堪えきれず小紅に声をかけた。
「小紅、眠ったか?」
 すると、意外にもすぐに反応が返ってきた。
「まだ」
「そうか」
 栄佐は短く応え、小紅には知られないように息を吐いて天井を見つめた。

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