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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 照れ臭さをごまかすようにわざとぶっきらぼうに言っても、今度は返事はない。訝しく思ってそっと屏風越しに隣を覗き込むと、彼の想い人はもうすやすやと安らかな寝息を立てていた。
 ふっと栄佐は笑い、優しいまなざしを小紅に向けた。何もかも委ねて安心しきったその表情は稚く、子どもが親に見せるそれと似ている。小紅が自分を信頼しきっているのがありありと判った。

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