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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 しかし、その日に限って、芝居小屋の稽古が長引いた。春の興行が近づいていて、栄佐も女を迎えに行くために早引けするとは言い難い。他の仲閒たちは大部屋とはいえ皆、居残って遅くまで練習しているほどなのだ。
 栄佐は苛々しながらも、抜けるに抜けられず、稽古を続けていた。
 一方、その頃、小紅は一人で茶店にいた。店を開けている間は表は葦簀(よしず)で囲っている。葦簀で囲った店先にも客がくつろげるように椅子は置いてあるし、奥にも土間に小さな机と椅子を置いていた。

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