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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 寺のすぐ近くで色恋に身を灼く出合茶屋というのも不謹慎というか何とも不似合いなものだが、これが浮き世の妙なところだともいえる。早足で歩いているので、火照った頬にひんやりとした夜風が気持ち良い。冷たい風が小紅の髪を揺らして通り過ぎていったその時、突如として背後から抱きすくめられた。
―な、なに?
 小紅は狼狽え、あらん限りの力で暴れた。

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