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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 三十半ばの男はなかなかの男前だ。男の右腕に腕を絡ませしなだれかかるのは、どう見ても十七、八の娘で、この二人が訳ありの仲なのは一目瞭然である。娘の方は派手やかな振袖に黒繻子の帯、着物は薄紅色に紅梅白梅が散っている見事なものだ。挿している簪も豪奢な値の張るものと見た。
 どう見ても大店のお嬢さまとその店に仕える番頭といったところか。男の歳では普通なら女房子どもがいるはずだ。番頭と大店の娘の道ならぬ恋、か。

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