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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 栄佐は心で独りごち、男の方にそっと銭を握らせた。
「暗がりといっても、今夜は月も明るいじゃねえか。兄さん、お楽しみのところ、あい済まねえな。俺も生憎とここで愉しもうと女と約束してたんだが、どうやらはぐれちまったらしい」
 栄佐は男に腕を絡ませている娘に極上の笑みを向けた。江戸中の女を落とすといわれている板東碧天の笑顔に、若い娘は忽ちボウと心奪われたように見蕩れている。

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